東京高等裁判所 昭和39年(う)860号 判決 1964年7月22日
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
≪前略≫
四、所論は更に、原判示第三が日本銀行券千円券の変造であるとした行為は、刑法の規定する通貨の変造に該当するものでなく、従つて右に言う変造千円券の行使も同法の規定する変造通貨の行使ではなく、この点原判決は法令の解釈適用を誤つている、と主張するのであるが、原判示第三が日本銀行券千円券の変造であるとした行為は、被告人が、日本銀行券千円券を偽造する材料を得るため、日本銀行券千円券の上下左右いずれかの約四分の一宛を切り取り、残余の部分をなお正常な千円券として行使する目的で、右欠損した部分にハトロン紙を貼附補充し、以つて右欠損部分が流通の過程において自然的にかまたは図らざる事情により欠損し、その欠損部分が所持人により善意で補修されたものの如く作為した、と言うものであることが記録上明らかである。通貨の偽造あるいは変造の罪が主として通貨の真正を確保しこれに対する社会の信用を保護することを目的としていること、並びに日本銀行券が特定の厳格な様式規格を備えることによつて通貨としての社会の信用を保持し、これに損傷を生した場合においても、それが流通の過程において自然的にかまたは図らざる事情により生じたもので、なおその通貨としての存在を失わないと認められる場合にのみ、通貨として社会の信用を保持し若しその損傷が不法の目的で故意に加えられたものであればこれに対する社会の信用が著しく失われるのは当然であること、を考え合せるときは、被告人の前記行為はとりもなおさず真正な通貨としての特徴を保持しつつ、故意にこれを変更を加えたもので、通貨に対する社会の信用を裏切るものと言わざるを得ず、この意味において通貨である日本銀行券の変更に該ると解するのを相当とする。なお右の如く一部分切除されて欠損した日本銀行券を損傷日本銀行券引換規定により他の日本銀行券と引換を受け得るか否かは、同日本銀行券の変造の成否とはかかわりのない別個の問題であつて、右引換を受けられる故を以つてその変造の成立を否定し得るものではない。されば原判示第三に言う日本銀行券千円券の変造及びその変造千円券の行使は、刑法の規定ある通貨の変造及びその変造通貨の行使に該当するもので、これと同旨に出でた原判決の判断は正当であり、論旨は排斥を免れない。≪以下省略≫(裁判長判事新関勝芳 判事斎藤孝次 鬼塚賢太郎)